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大阪市西区・南堀江法律事務所のブログです。
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尖閣事件について、もう少し続けますので、おヒマな方はお付き合いください。
 
映像を流出させたことが有罪にあたるかどうかについて、前回検討しました。「秘密」の意味を厳密に捉える立場にたったとしても、秘密保護の必要性が充分に証明されれば、有罪となる可能性はあると考えています。
 
ただ、有罪・無罪の議論よりも、多くの方がこの一連の経緯にもっと違和感を禁じえない部分があると思います。
 
それは、領海侵犯、漁船への故意の衝突を繰り返した中国人の船長は処分保留で釈放され、高々とVサインを掲げて国へ帰ったのに、そのことに義憤を感じて映像を公開した海保職員は刑事裁判で裁かれないといけないのか、ということです。
 
現時点で海保職員は逮捕されておらず、起訴されるかどうかもわかりません。
しかし、中国人船長を放免し、海保職員のみを起訴したとなれば、検察への信頼はますます地に落ちるでしょう。
 
このように、起訴すること自体がおかしい事件を検察があえて起訴した場合、裁判所は有罪・無罪の審理をすることなく、裁判を門前払い(公訴棄却)してしまえ、という理論があります。
 
「公訴権濫用論」というのがそれでして、検察官は起訴・不起訴の判断について広い裁量権を持っているけど、その権限を濫用(悪用)したような場合は、起訴自体が不適法になる、ということです。
 
公訴権濫用が問題になった有名な事件を一つ紹介します。
昭和47年、水俣病の原因を作った企業とされる「チッソ」の本社に、補償を求めて談判をしようと水俣病患者や支援者が訪れた。その際、ある患者とチッソ社員がもみ合いになり、双方が軽いケガをした(やや単純化しています)。
 
双方がケガをしたから、いわばケンカ両成敗で、双方に傷害罪が成立します。ところが検察は、チッソ社員は起訴せず、患者のみを起訴した。
 
1審は患者を有罪としたが、2審は公訴権濫用を認め公訴棄却。最高裁(昭和55年12月17日)は、公訴権濫用までは認められないけど、2審の結論自体はそのままで良いとした。
 
そして、どういう場合に公訴権濫用が認められるかというと、起訴することが「職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」という、わかりにくいながら、よほどおかしな起訴である場合に限定すると述べています。
 
検察が海保職員を起訴したとして、それが「極限的」におかしい起訴かというと、そこでまた議論は分かれることになるでしょう。
 
しかし、那覇地検は「日中関係を考慮して」中国人船長を釈放したと言っています。
海保職員がもし「日中関係に悪影響を与える」という理由で起訴されたとすれば、検察は、外交問題にまで立ち入り、特定の外国への配慮を理由に刑罰法規の解釈適用をねじ曲げているわけでして、それは「極限的」におかしいと言ってよいと、個人的には思います。
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