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前回書いた、有罪・無罪のルールを前提にして、郵便不正疑惑について触れます。
事件を簡単にいえば、障害者団体を偽装して不正に安い郵便料金でダイレクトメールを郵送していた団体があり、その団体に障害者団体としての証明書が発行されていたというものです。
公務員がニセの証明書を発行すれば、虚偽公文書作成罪という犯罪になります。この事件では、村木元局長が、議員の口利きを受けて、部下にニセの証明書を発行するよう指示したのかどうかが問題となった。
部下の係長ら関係者は、検察の取り調べに対し、当初は「村木局長の指示があった」と言っていたそうですが、裁判の段階になって、「あれは検察に無理やり言わされたものだ」として証言を翻した。
ということで、前回のルールにあてはめて、有罪・無罪を検討してみてください。
村木氏は一貫して指示したことを否認しているから、被告人の自白はない。
検察官は「指示があった」という関係者の供述調書を作ったが、弁護側は「無理やり言わされたものだ」と異議を唱えたため、証拠に採用されなかった(前回のルール4です)。そして関係者は法廷に出て、「指示はありませんでした」と証言しました。だから、犯行があったとする証人の調書や証言は何もない。
物証もない。殺人事件なら死体や凶器が残りますが、「ニセの証明書を作れと口頭で指示したこと」は、(仮に言ったとしても)あとに残らない。証明書自体は残っているでしょうけど、それは、部下が勝手に作ったのだと言われると、村木氏の指示で作ったという証拠にはならない。
かように、本人の自白もない、他人の証言もない、物証もない。村木氏の犯行を立証する確かな証拠は、何もないわけです。これでは無罪にならざるをえない。
ちなみに、検察官の作った調書を採用すべきかどうかについて、大阪地裁が、判決に先だって「任意の証言でないから却下する」という判断を出したことも、注目に値します。
これまで、検察官の調書は非常に信用性が高いということで、弁護人が異議を唱えても、何やかやの理由で証拠に採用されてしまうことが大半だったのです(「何やかや」の部分は刑事訴訟法に規定があるのですが省略)。
今回の無罪判決は、こう検討してみると当然のことなのですが、検察しかも特捜部が、裁判所からも「信用できない」と言われるほどのずさんな捜査をしたことについて、弁護士ながら驚きを禁じえないところです。
そして、こういうことがあるから、やはり弁護士の働きは重要なのだなと、手前味噌なことを付け加えます。