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大阪市西区・南堀江法律事務所のブログです。
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福岡での三児死亡交通事故で懲役20年の判決について、続き。

まず、「懲役20年」などという判決を聞いたことがありますでしょうか。思い返してみてください。私には、この事件のほかに思い出せません。

これは、近年、刑法が全体として重罰化されたことによります。
従来、「有期懲役」は、長くて15年、特に事情があって重くできるときは20年までとなっていた。それが現在では、長くて20年、重くできるときは30年までとなっている。

危険運転致死傷罪(刑法208条の2)は、怪我させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は「1年以上の有期懲役」とあるので、死なせてしまうと「1年以上、30年以下」の懲役を科することができる。

「人を3人死なせたのだから、20年でも軽いだろう」という意見もあるでしょう。検察側の求刑は25年でしたが、最高の30年を科すべきだとか、(条文上は不可能だけど)死刑にすべきだ、と思う人もいるでしょう。私自身、子供ができて、この事件の悲惨さは改めて身に染みたつもりです。

しかし、単純な重罰化論は極めて危うい。
たまたまこういう悲惨なケースだから、当然(または軽い)と思う人も多いでしょうけど、この「危険運転致死傷罪」、実はとても恐ろしいものであるということは、知っておいてほしいと思います。

この条文には、「アルコールや薬物で正常な運転が困難な状態で自動車を運転し、人を死亡させた場合」は、「1年以上の有期懲役」とありまして(条文を一部要約)、今回、これが適用されました。

条文にはさらに続きがあって、他にも「車を制御困難な高速度で走らせた場合」、「高速度で通行妨害目的で他の車に接近した場合」、「高速度で赤信号を無視した場合」などにも、その行為がもとで人を死なせると、「同様とする」(つまり1年から30年の懲役)とされている。

高速道路で時速100kmオーバーしたとか、車線が合流するところでちょっと強引に割り込んだとか、信号が変わりかけのところでスピードを上げたとか、これらは道交法違反ですが、実際には、ドライバーの多くの方が経験しているのではないでしょうか。

そのはずみに人をはねてしまうと、怪我だけでも15年以下の懲役、死なせると最高30年の懲役にあたる、条文上は、そう読めるわけです。

もっとも、こうしたケースですべて20年や30年の懲役になるわけではない。福岡高裁が懲役20年の判決を選択したのは、この事件がそれだけ悪質だからです。
しかし、「交通犯罪には重罰当然」という世論ができてしまうと、検察官や裁判官は些細なケースでもこの条文をばんばん適用し、同様の重罰を科するようになるでしょう。

故意による殺人でも懲役10数年にとどまることも多く、また無期懲役といっても20年前後で出所することも多いらしいことも考え合わせると、誰でもはずみで起こすかも知れない交通事故でここまで重くなるのは、やや突出した厳しい条文だと思います。

1審の福岡地裁は、この条文の危険性をよくよくわかった上で、通常の道交法違反や業務上過失致死とは次元の違う重罪を適用してよいか、それだけの証拠があるか、慎重に検討した上で、結論としてその適用を思いとどまったわけです。

地裁と高裁、どちらの結論が正しかったのか、これは私にもわからない、と昨日と同様に逃げておきますが、危険運転致死罪の適用には、どんなに慎重であっても慎重すぎることはない、というのが私の感想です。
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