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大阪市西区・南堀江法律事務所のブログです。
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いつものことながら、更新頻度にムラがあってすみません。昨日に引き続き更新します。

市橋容疑者が逮捕されました。わざわざ変な顔に整形して、それで逮捕されては本人もたまったものではないだろうと思いますが、これも自業自得です。

逮捕当日、市橋が大阪から千葉へ新幹線で移送されたときの報道の加熱ぶりは大変なものでしたが、今度は、警察から検察に「送検」されるとき、TBSの社員が「公務執行妨害罪」で現行犯逮捕されたとのニュースがありました。
市橋容疑者の様子を撮影しようとして、行き過ぎがあったようです。

公務執行妨害罪とは、暴行または脅迫によって、公務を妨害することを言います。
暴行とは、「人の身体に対する有形力の行使」(他人に物理的な力を加えること)を意味します。

本件のTBSの社員がどのような「暴行」を行ったのか、新聞やネットのニュースなどを見ると報道内容にバラつきがありますが、1.パトカーの前に立ちふさがった、2.警官の制止を振り切った、3.警官を突き飛ばした、などと書かれています。
3まで行けば、明らかに暴行です。でも2は微妙で、1だけならさらに微妙です。

もっとも、公務執行妨害罪にいう暴行は、他人に直接危害を加える「暴行罪」の暴行よりは広く解釈されていて、警察や裁判所の解釈でいけば、1や2だけでも充分暴行にあたるとされるように思われます。

私がこれまでに担当した中では、少年事件ですが、少年が警官の白バイの前に「通せんぼ」をして立ちふさがって、公務執行妨害罪で逮捕され、少年審判を受けたと言うケースがありました。

行為自体は、ワルぶって警察につまらぬ虚勢を張った、非難されて当然のケースなのですが、それが公務執行妨害と言えるのか。この少年が警官に「暴行」をふるったといえるのか。
白バイは徐行していて、少年の手前20メートルほどで余裕を持って止まっているのです。

私は、この少年が警官に有形力を行使したとは到底解し得ない、という主張を展開したのですが、裁判所の認めるところとはならず、成人で言えば有罪に相当する処分が下されました。

冒頭の事件に戻ると、TBS社員のしたことは、危険な行為でもあり、容疑者の移送を妨げるものです。のりピーの事件などでも見られた最近の報道の加熱ぶりからすると、そうした行為は規制されても仕方ないようにも思える。

しかし公務執行妨害罪という犯罪は、あくまで暴行・脅迫という、かなり強度の害悪を用いるがゆえに処罰されるのだという前提は、もっと重視されるべきです。
そうでないと、私たち国民誰もが、警察のジャマをしたら逮捕、とにかく警察の気に入らない行動をとったら逮捕、といった運用をされてしまう恐れがあるのです。
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今週は何も書かないままに週末を迎えてしまいました。
業務の多忙のほか、今週はあまり、ネタにしたいニュースに出会わなかったためですが、あえて何か拾うとすると、詐欺罪で逮捕中(埼玉地裁)の女性の周辺で男性が次々に不審な死を遂げていた、というのが注目されます。

この人の、どこそこのホテルでランチしたとか、車をベンツに乗り換えたとかいう、一人よがりの勘違いセレブ風なブログを読んでみたくて、いくつかのキーワードで検索してみましたが(業務多忙とか言いつつ結構ヒマなことをしてます)、すでに削除されているようです。

当ブログでは、少しでも読者の方に有用な情報を提供すべく、今週、依頼者と雑談している際に聞かれたこんなご質問を紹介します。

イギリス人のリンゼイさんが殺害された事件で、指名手配されている市橋容疑者が名古屋で整形手術をしたとの報道がありました。たしか昨日、写真が新聞・テレビで公開されましたが、整形の報道があってから2、3日の間は、写真が公開されていませんでした。
その期間中に聞かれたのですが、「どうしてあの事件の整形後の写真は報道されないのですか?」ということでした。

この答えは簡単で、医師としては守秘義務があるから、整形写真をすぐに公開するわけにはいかない。だから、警察がその医院から写真の「領置」(りょうち。証拠物を任意に提出してもらうこと)を受け、警察がその写真を指名手配に乗せるという手続きに時間を要したのでしょう。

このときもし、医師側が任意の提出を拒否すると、裁判所から「差押」の令状が出て、警察官がその写真を強制的にでも押収できますが、たぶんそこまで行かなかったと想像しています。

本来なら、医師が自分のところで整形手術をした人の写真を公開するなど、甚だしいプライバシー侵害ですが、この場合は犯罪捜査のためということで、医師に違法性は認められないでしょう(仮に違法として、市橋容疑者は訴えようにも訴えられない)。

ついでに冒頭の勘違いセレブ女性の話に戻りますが、この人は結婚詐欺の容疑で逮捕されたとはいえ、男性を殺したことについては証拠が固まっていなくて、逮捕状が出ていない。

週刊誌には顔も名前も出ているのに、新聞では未だに名前が伏せられているのは、以前にも書きましたがあまり早くに容疑者扱いしてしまうと名誉毀損の問題になるからです。こちら

以上、小ネタ風を2題ということで今週はこのへんで。
少し前に新聞に出ていて、大した話題にならずに終わった事件について触れます。
岡田外相が、国会開会の際の天皇陛下の「お言葉」について、「もっと心のこもったものにしてほしい」と、宮内庁の人たちに注文をつけたとか。

お言葉とは、国会の開会にあたって、天皇陛下が「国民の負託に答えるよう期待します」などと(本当はもう少し長いけど)述べるものです。

弁護士のクセとして、何でも「法的根拠」を考えてしまうのですが、このお言葉には、法的根拠はありません。
ご存じのとおり天皇は日本国の象徴であり(憲法第1条)、内閣の助言と承認に基づいて一定の「国事行為」(同7条)を行う存在とされていますが、国事行為の中に「お言葉」は書かれておりません。

これはおそらく「慣習」によるものです。
明治時代の天皇は「主権者」であり、明治憲法では、国会の作った法律は天皇の裁可(OKサイン)がないと成立しなかった。そのため天皇が国会に出て「ひとつがんばって、朕の裁可に足る法律を作りなさい」とお言葉を賜るのは、おそらく当然のことと考えられたのでしょう。それが今でも残っている。

さて、そのお言葉に「心を込めろ」というのが岡田外相の言い分ですが、果たしてそれが良いことなのか。
その天皇陛下のお言葉が問題とされたケースとして、こういったものがあります。

戦後、日本が占領状態を脱し独立を回復する法的根拠となったのは「サンフランシスコ講和条約」(1951年、昭和26年)ですが、これはアメリカや西ヨーロッパの「西側諸国」とのみ締結した「単独講和」でした。
当時の社会党など左翼の人たちは、ソ連や東ヨーロッパや中国など「東側諸国」も含めて「全面講和」をすべきだと主張し、世論も割れていた。

吉田内閣は現実路線をとって西側諸国との単独講和を結びました(結果的に、西側と仲良くしておくことによって、日本が経済的に発展できたのです)。
その直後の国会で、昭和天皇が「講和条約の成立を嬉しく思います」という趣旨のお言葉を述べられました。

これは単に、日本の主権回復を祝う意味であったと思われますが、ひねくれた根性の人たちは「全面講和でなく単独講和を祝っている、つまり天皇は吉田内閣を支持し、社会党の考え方を否定している」と受け取った。
日本国全体の象徴である天皇が、時の内閣を支持するとか、反対政党を支持しないとか、そういう言動をしてはならんじゃないか、と問題視したわけです。

かように「講和を祝う」と言っただけで一部勢力の人が騒ぎ立てるのですから、天皇陛下のお言葉がどうしても平板になるのはやむをえないのです。

岡田外相はまさか「政権交代を嬉しく思う」などと言わせようとしたわけではないと思いますが、天皇陛下に何を求めたかったのか、意味のよくわからない進言でした。
最近、書きたいネタはたまっているのですが、事務所での業務も慌しく、自宅では息子が「はいはい」をしだして目が離せず、ゆっくり文章を書く時間がなかなかありません。

とりあえず今回は、札幌の書店で本棚が倒れ、小学生の女児が重体になった事件について。
この書店の店主は、民事上・刑事上の責任を負うことになるのか。それは、書店側に本棚の管理に「過失」(落ち度)があったか否かによります。

「過失」とは、当ブログでも度々書いてきたかと思いますが、「そういう結果を予見できて、回避できたのに、しなかったこと」を意味します。

書店だから、小さい子供を含めてたくさんの人が出入りするし、子供なら何かの拍子に本棚にぶつかってしまうかも知れない。ちょっとした地震程度ならしばしば起こる。
そういう事態は充分「予見」できるから、それに対応して、本を詰め込みすぎないようにし、本棚に「つっかい棒」などの措置をするなどによって、事故を「回避」しないといけない。

それをしないで事故を起こせば「過失」ありとなって、民事上は賠償問題となり、刑事上も過失致傷の罪になりうる。
ただ、想像を絶するような大地震が来たとか、子供が店内で常軌を逸する大暴れをしたせいで本棚が倒れたなどの場合は、不可抗力ということで過失責任は問われない。
…と、一応単純には言えますが、過失か不可抗力か、その線引きはなかなか難しいです。

教科書的に言えば、その結果を抽象的に想定できる、というだけでは足りず、「具体的に予見できる」必要があります。
私が素人に説明するときは、
「その結果を世間一般の人が見て、『まさかそんなことになるとは』と思う場合が不可抗力で、『そらそういうことも起きるで』と思う場合が過失です」と言っています。

冒頭の書店の事件がどちらにあたるか。警察がすでに本棚と本を押収して当時の状況を調べるらしいので、これからの調査を待つことになるのでしょう。


話は変わりますが、この事件で書店の経営者の人が取材を受けて、「本棚に問題はありませんでした」といった趣旨のことを答えていたのをテレビニュースで観て驚きました。

こういうときはひとまず、自分の店で人が大ケガしたことについて詫びるのが先だと思うのです(もちろん、メディアの前で謝罪する義務などないけど、あんなことを言うくらいなら会見などしないほうがいい)。
道義的な責任としてお詫びをした上で、法的責任があるかどうかは、後で慎重に検討すればよいのです。日本には幸い、「謝ったら負け」なんてバカな慣習はないのですから。

コンプライアンスか天ぷらうどんか知りませんが、薄っぺらな法令遵守の考え方を持ってしまうと、こういうときに人として当たり前の対応もできなくなるのだな、と思ってしまったのです。
押尾学の保釈に関して、もう少し書きます。

よくテレビなどを見ていると問題とされているのが、同じ部屋にいた女性が死んでいるという重大な事案なのに、なぜ保釈されたのか、ということです。

それは、今回起訴されたのが麻薬取締法違反(使用)だけで、女性が死んだ件では逮捕も起訴もされていないから、ということに尽きます。
裁判所としては、女性が死んだ事件はないものとして扱わないといけない。麻薬使用だけでも悪質ではありますが、保釈されてもおかしくはない事案だと思います。

ではなぜ、女性が死んだ事件は取り上げられていないのか。
芸能事務所が警察に圧力をかけたなどと疑う人もいるようですが、それは考えられません。
警察や検察、つまり国家権力というのは地上最強の実力(暴力を含めて)を持つ組織であり、一芸能事務所が圧力をかけられるような相手ではありません(それに、押尾学を守るために国家権力を敵に回そうって人もいないでしょう)。

答えは一つで、女性の死の責任を押尾学に問えるか否かが微妙だからです。

ここで適用が考えられる条文は、「保護責任者遺棄致死罪」です(刑法219条、205条、3年以上20年以下の懲役)。

これが適用された有名な事案としては、
ヤクザが13歳の女の子をラブホテルに連れ込んで、セックス目的で女の子に覚せい剤の注射をしたところ、女の子が中毒症状で苦しみ出し、ヤクザはそれを放置して逃げてしまったため、女の子が死んでしまった、というケースがあります(最高裁平成元年12月15日判決)。ちなみにこのヤクザの判決は懲役6年です。

押尾学に「保護責任」があったか。それを「遺棄」(放置)して死なせたか。冷静に検討すると、かなり微妙なのがわかります。

被害者は報道によると、30歳前後のホステスで、いい大人です。亡くなったことは残念でかわいそうだけど、そもそも不用意に押尾学と「密会」などすべきではなかった。
MDMA(麻薬)は誰が入手したかは知りませんが、押尾学が無理強いして飲ませたとは考えられず、女性の意思で飲んでいるはずです。

その状況で「保護責任」が発生するか、やや疑問が生じます(もちろん、道徳的には保護してやるべきだけど、刑法上の責任を問うには、上記のヤクザのケースと比べるとやや弱い)。

「遺棄」したかというと、いちおうはマネージャーに相談して、(本当かどうかはまだわかりませんが)マネージャーが救急車を呼ぶというのを信じて、部屋を出た。遺棄とは言い切れないでしょう。

もちろん、警察は引き続き捜査を進めているはずで、将来的にこちらの件で押尾学が再逮捕されるということはあるかも知れませんが、現時点では確実な証拠がつかめていないのでしょう。

もう少しだけ続く予定。
のりピーネタ、もう一つ。
のりピーが不起訴になるのではないかと報道されているようです。不起訴だと、草なぎクンと同様、裁判なしで釈放となります。

覚せい剤所持罪のほうは、自宅にあった覚せい剤がごく微量なため、鑑定にまわすのに充分な量が確保できない。覚せい剤使用罪のほうは、尿検査の結果、覚せい剤の成分は検出されなかった。そういうことのようです。

以下、使用罪のほうに限定して書きますが、尿から覚せい剤が出てこないと無罪になるのかというと、そんな決まりはありません。尿以外でも何らかの証拠があればよい。
では、いかなる証拠が考えられるか。

「のりピーは自白してるんだからそれでいいじゃないか」と思う方がおられるかも知れませんが、それはできません。「本人の自白だけでは有罪にできない」と、憲法や刑事訴訟法が定めているからです。

では、夫も「一緒にやった」と自供している、これを証拠に使えるか。
この点は刑事訴訟法の解釈上、本人(のりピー)の自白にプラスして共犯者(夫)の供述での補強があれば有罪にできるとされています。

ただこれはあくまで理論上そうだというだけで、現実には証拠としては非常に弱い。裁判の段階になって、弁護側の戦略で両者が証言をひるがえしてしまう可能性があるからです。
いま現在、自白していて、供述調書にサインもしていることは証拠にならないかというと、弁護側は調書を裁判所に提出することを拒否できるため、そうなると法廷に出せる証拠は何もナシになる。

実務上、検察側は、被告人が証言を完全にひるがえしても有罪にできる証拠を出します(司法研修所でもそう教わりました)。それができない限り、立件をためらうでしょう。

ならば毛髪鑑定はどうか。覚せい剤は毛髪に残るので、何本か採取して鑑定にかけることが考えられる。この場合、のりピーが毛髪の提供を拒んだら無理にむしりとることができるかという問題はありますがそれは省略し、任意に提供したとします。

ただ毛髪鑑定の結果わかることは、「ここ数年か数か月のうちに覚せい剤をやったことがある」という程度のことらしい。それだと、犯行時刻の特定としては弱いのです。

起訴する際には、犯行の時刻と場所を特定する必要があります。そうでないと、被告人側がアリバイを出したりするなどの反論ができなくなり、フェアでないからです。
何月何日、何時何分と、そこまで厳密に特定できなくても、ある程度の幅は許容されるのですが、それにしても「過去数年内」というのでは、ぼやけすぎている。

そういうことで、検察側は証拠の点でなかなか難しい公判を迫られることになりそうです。
しかし、ここは意地でも起訴に持ち込まないと、「覚せい剤をやっても1週間逃げれば不起訴になる」という先例を作ってしまいます。

のりピーの取調べは今しばらく続くでしょうけど、ひとまず現段階での話はこれくらいで。
最高裁が正当防衛に関して注目すべき判決を出しました。

被告人とされた女性は、不動産をめぐるトラブルから、不動産会社の社員らがその女性の自宅兼事務所の壁に「立ち入り禁止」の看板を取り付けようとしたのが原因で言い争いになり、その社員の胸をついて転倒させ、怪我をさせた、ということのようです。

人の胸を突き飛ばすのは暴行罪、怪我をさせると傷害罪にあたるのが原則ですが、最高裁は16日、この女性の行為を、正当防衛にあたり無罪であるとした。

正当防衛を定めた刑法36条によりますと、
「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」とある。
もっともその行為は真に「やむを得ずした」ものである必要があり、行き過ぎ、やり過ぎがあると「過剰防衛」として有罪になります。

例えば、相手に殴られそうになったから、自分の身を守るために殴り返した、という場合は正当防衛になる余地がある。しかし、武器を持って反撃したとか、体格の勝る男性が華奢な女性に本気で殴り返したとかすると、過剰防衛になるでしょう。

さて、冒頭のケースが目新しいのは、この女性は、不動産会社の社員から自分の身に危害を加えられようとしていたわけではない点です。あくまで、自宅に「立ち入り禁止」の看板をかけられそうになったということです。

条文によりますと、自己の「権利」を防衛するため、とあるので、自分の生命や身体を守る権利に限らず、自分の財産権を守るための行為でも、正当防衛の対象にはなる。しかし、生命・身体に対する危害に比べると、緊急性の度合いは低いので、なかなか正当防衛は成立しにくいと一般的に考えられていました。
今回の判決は、最高裁が実際のケースでこれを認めた点が画期的です。

詳しい状況については新聞記事には簡単にしか書かれていないのでよくわかりません。問題となった不動産が本当は誰の物であるかもよくわかりません。
それでも、そんな状況で看板を無理やり取り付けてしまおうとした不動産会社側の行為も相当に問題ありということで、突き飛ばした行為もやむをえないとしたのでしょう。

おそらくこれは極めて例外的なケースであって(不動産会社側が相当に執拗でひどいことをしていたのではないかと想像しています)、財産を守るための正当防衛は依然、今後もめったに成立しないものと思ってもらっていいです。

たとえば知人が貸した金を返さないからと言って、脅したり殴ったりすると、脅迫罪や暴行罪に問われますので、不用意な実力行使は決してすべきではありません。
刑事事件に関する注目すべき判決が出ていますが(緒方元検事長の詐欺の有罪判決や、財産侵害に対する正当防衛を認めた最高裁の無罪判決とか)、ひとまず、ツッコミ所の多い事件から触れてみたいと思います。

東武線の駅員が「しっかりしてない」ことに腹をたて、東武線の特急電車のトイレに備え付けのトイレットペーパー2個を流して詰まらせたということで、50歳の男性が、器物損壊罪と偽計業務妨害罪の容疑で逮捕されました(16日夕刊各紙)。
動機はともかく、便所に紙を詰まらせると犯罪になるのか、検討します。

まず、器物損壊罪。
当ブログでも何度か書きましたが、損壊とは、「物の効用を喪失すること」、平たく言えば、もはや使えない状態にすることを言います。

たとえば、「食器に放尿した」という事案が器物損壊罪になったという事案は古くから有名で、これはたしかに、おしっこをかけられた食器なんて、いくら洗っても、そんな汚らしいものを、もはや使う気になりません。
しかし、便所に紙が詰まったというだけなら、その紙を取り除けばまた使えるのであって、もはや使う気にならないと言えるかどうかは疑問であると、私は考えます。

もう一つの、偽計業務妨害罪。
これは文字のとおり、偽りの計略を用いて他人の業務を妨害することを言い、字面の上だけでは、ちょっと知能犯的なニュアンスのある犯罪です。

しかし、便所にトイレットペーパー2個分を詰まらせるという行為は、どう考えても、あまり頭の良さそうな犯罪ではない(いちおうフォローしますがこの被疑者の職業は塾講師だそうで、本当はきっと頭の良い人だと思うのですが)。

果たして便所に紙を詰まらせるのが「偽計」なのか。
刑法の教科書によりますと、「目に見えない方法」で業務を妨害するのがこの偽計業務妨害罪で、「目に見える方法」で妨害するのが威力業務妨害罪であるとされます。威力とは、「人の意思をくじくほどの力」とでも理解してください(いずれも懲役3年以下で、罪の重さは同じです。刑法233条、234条)。

たとえば電車のシートに、目に見えないように針を埋め込むのは「偽計」で、乗客の目に触れるような形で針を刺すのは「威力」であるとされます。

便所で言えば、目に見える形で便器いっぱいに紙が詰まっていれば、「何でェ、こんな便器、使えねえじゃねえか」(東武線なので東京弁で)と、用を足そうとしていた利用者の意思をくじくので威力業務妨害になります。

本件は偽計業務妨害が適用されたようなので、たぶん、
「一見してわからないけど、便器の奥深くに紙が詰め込まれてあって、利用者が用を足したあとに水を流そうと思ったら詰まっていてエライことになった」という状況であったのではないかと想像しています。
利用するほうにとっては、そっちのほうがよほどショックで、これこそ意思をくじく「威力」に該当しそうな気もするのですが。

偽計か威力かはともかく、不用意に便所を詰まらせると「業務妨害」になるというのが、警視庁の解釈のようです。ということで、公共のトイレを利用する側は今後注意すべきかも知れません。
お知らせ
一時的に戻ってきました。 左上に「裏入口」という小窓が出てくるかも知れませんが、当ブログとは関係ありません。おそらくアダルトサイトへの入口なので、クリックしないでください。
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